海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
大和の異変に気付いたのは、少し前の事だった。


『最近イライラしている事が多いなぁ…。』


そう感じたのが最初。

だけどそれは、


『仕事でうまくいかない事があったのかもしれない。』


と、時々八つ当たりのような態度をされた事があったせいで、そんな風に思っていた。


実際に仕事が原因だった日もあったのかもしれないけれど、それだけではない事に気付いたのは割と最近の事だった。



少し前、仕事で私の帰宅時間が遅くなった日が続き、その最後の日が土曜日だった。


いつもだったら夕飯を作って待っているのだけれど、

この日はどうしてもそれが出来なくて、会社帰りにまっすぐ大和の部屋に行った。



「ごめんね、今日も帰りが遅くなって…。」


大和の部屋に入ってすぐに詫びると、

壁を背もたれにして、フローリングの床に座っていた不機嫌そうな大和が、


「また仕事か。」


そう一言、私の顔も見ずに言ったのだった。


「…ごめん…。」


私には謝ることしか出来なかった。

今まで何とかやってきた最低限の事さえも、この日は出来なかったのだから。



床に座ってテレビを見ていた大和は、怒った顔を私に向けると、


「忙しいんだろ?いいよ、無理しなくて。」


そう言うと、傍にあった上着を手に取り、


「俺ちょっと出かけてくるから、帰るなり何なり好きにすれば。」


そう冷たく言い放ち、足早に私の前を通り過ぎた。

私は慌てて玄関先で靴を履いている大和に駆け寄ると、


「そんな言い方しなくてもいいじゃない!」


そう、私に背を向けたままの大和に言った。

大和は振り返ったけれど私と目を合わせる事も無く、


「今は話す気分になれない。悪い…。」

「ちょっと待って…!」


私の言葉も空しく、そのまま大和は出て行ってしまった。
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