海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
バタンと冷たい音を立てて鉄製の扉が閉まった後も、私は呆然とその場に立ち尽くしていた。


やがて、とぼとぼと重い足取りで部屋の中に戻ると、


暗くて重たい空気に満ちた室内に響いている、賑やかな笑い声が耳障りで、私は乱暴にリモコンを掴むとテレビを消した。


冷たい床にペタリと座り込んだ私は、大和が言った言葉を思い返していた。



“また仕事か”



そのたった一言で、彼がいつもそう思っていたのだと分かったから。



“いいよ、気にしなくて”

“俺も忙しいし、大丈夫だよ”

“仕方ないよ”



大和が言っていたこの言葉は嘘だったのだろうか。


私は大和の優しさに甘え過ぎてたのだろうか。


同じような言葉を私が大和に言った時、心からそう思って言っていたけれど、


大和はちっともそんな風に思っていなくて、私に合わせていただけだったのだろうか―…



私はこの時ようやく、大和との間に出来始めている溝に気付いたのだった。



仕事も大切。

大和のことも大切だと思っていた。




けれど、

結局私は大和の事を蔑ろにしていたのかもしれない―…




考えている内に、自然と涙が込み上げていた。



悲しかった。

とても、とても、悲しかった。



伝わらない自分の気持ち。

分かってあげられなかった大和の気持ち。



仕事と恋愛を両立できない不器用な自分に苛立ち、

これからどうするべきかも分からなかった。



「どうしたらいいの…?」


私は涙を拭いながら考え込んでいたけれど、思考回路は八方塞のまま。


悶々とした気持ちが変わる事無く、ずっと大和を待ち続けていたけれど、


この日は結局、朝になっても彼は帰ってこなかった。
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