海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「一緒。河原もみんなも、俺にとっては可愛い生徒だよ。」


“俺にとって可愛い生徒”


その言葉を聞いた途端、目頭が熱くなるのを感じた。


「先生、ズルイ…。」

「なんでだよー?」


相葉先生は少しだけ笑いながら答え、逆に私の目からは一粒の涙が零れた。


先生は決して小馬鹿にしたような話し方をしていた訳ではなく、どちらかと言うと、大人が子供を諭すような感じだった。


その事が私自身に自分の幼さを知らしめ、先生と私の間にはどうしようもない程、縮められない距離があるのだと思った。



「絶対に特別にはなれないの?」


これ以上、相葉先生の言葉が変わらない事くらい、私にも分かっていた。

だけど藁にもすがるような思いでもう一度、聞いてしまったんだ。



「…ごめんな。」


そう答える相葉先生に、私が言える事なんて何一つ残っているはずがなく…


「分かった…。」


結局、そう受け入れる事しか出来なくて


「じゃあ…また学校でな。」

「うん…。」


電話を切ろうとする相葉先生に、私は小声で返事をするのが精一杯だった。


「おやすみ。」


相葉先生が私に言った初めての“おやすみ”が、こんなにも悲しく聞こえてくるなんて、私は思ってもいなかった。


きっと告白なんてしていなければ、その“おやすみ”も幸せに感じられたのだろう。


「おやすみなさい…。」

「…」

「…」


小さく、蚊の鳴くような声で呟いた返事の後には、暫しの沈黙が訪れた。


そして相葉先生が様子を伺うように、

「…電話、切らないのか?」

そう、訊ねてきた。


それは先生なりの気遣いだったのかもしれない。
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