海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「…先生から切っていいよ。」


涙を堪えながら出した私の声は、きっと震えていただろう。

一瞬、裏返りそうになった。


「…じゃあ、おやすみ。」


もう一度相葉先生が“おやすみ”と言ったので、


「おやすみなさい…。」


そう答えると、先生の方から静かに電話を切った。


ツーツーツー

ツーツーツー…


終話を知らせる冷たい音が、受話器から何度も聞こえてくる。


私は電話を切ると、持っていた子機を力なくベッドに放り投げた。


そして傍にあったクッションに顔を突っ伏すと、1階にいる両親に聞こえないように声を押し殺して泣いた。


『私のバカ。』


心からそう思った。


フワフワと浮かれたまま告白して、こんなに傷つくなんて。


告白してスッキリするどころか、その結果にひどく落ち込み、


失恋は“自分は生徒で、相手は教師”という、簡単には乗り越えられない壁がある事を思い知らせただけだった。


相葉先生の特別になりたかった。


失恋しても、この気持ちは変わっていない。


どんなに“みんなと同じだ”と言われても、私の心がそれを受け入れようとしていないのだ。


だけど、どんなに受け入れられなくても、現実に“特別になりたい”という願いは叶わなかった。


それが本当に自分の身に起きた事で、その現実から逃げられるわけがないという事も分かってた。


それでも…


自分が失恋した事も、生徒と教師であるという関係も、


相葉先生から生徒以上に思われていないという事実も、


全てを受け入れられないまま“イヤイヤ”とゴネ続けている私の心は、完全に行き場を失っていた。


どうする事も出来ない苦しさを感じながら、私はただ、子供のように泣く事しか出来なかった。
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