海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「あ…あの…。」

「?」


分からない箇所を言わずに、いつまでもモジモジしている私を、相葉先生が不思議そうに見つめる。


真っ直ぐに私を見つめる相葉先生と、こんなにもしっかりと視線がぶつかってしまったら、結局本当に聞きたい事は聞けず、


「あ…あの!先生のあの噂って本当?」

「噂?」

「前の学校の生徒とデキてて、妊娠させちゃって…ってやつ。」


私は本当に聞きたかった事ではなく、咄嗟に思い出した“あの噂”の事を聞いてしまった。


時既に遅く、言った直後に

『だからって、この質問はどうなの…。』

そう感じて、私はしどろもどろになった。



そんな私に、相葉先生は笑って


「ああ!あれな!その後、二人でM市に駆け落ちして…って、どこまで聞いた?」

「M市に駆け落ち!?」


この話しに続きがあるなんて全く知らなかった私は目を丸くした。

第一、私の周りに知ってる人がいるんだろうか。

それさえも定かではない。


「なんだ、そこまで知らないのか。」


そう言って、相葉先生は笑った。

まさか、張本人から噂の続きを聞くなんて思いもしなかった分、驚きの表情で


「えっ?何!?先生、知りたい!教えて!」

「ダーメ!知らなかったならいいじゃん。」


私は食いついたけれど、相葉先生は少しだけ意地悪に笑いながら、また一口タバコを吸った。


『気になるだろう?してやったり!』


もしかしたら相葉先生は、こんな風に思っていたのかもしれない。


「えーっ!ケチー。」


私は頬を膨らませて笑った。


でも、噂の事なんて本当はどうでも良かったんだ。

一番聞きたかった事は、もっと別な事だから―…


「まぁ、いいや。ありがとうございました。」


噂の続きを聞き出す事を諦めて、素直に帰ろうとする私に、


「おぅ。気をつけて帰れよー。」


と、相葉先生はいたずらっぽく笑いながら、軽く手を振った。
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