いちごのきもち
§33:超絶元気

今日は学園祭前日、一日中その準備に追われる日。

「さぁ! いよいよだね、
 張り切っていこーっ!」

心にもないことを言ってみる。
そうやって騒いでいなければ
こんな気の重い学園祭、私には、やってらんない。

「お、みなみちゃん、
 気合い入ってるね」

大希くんの、そんなシャイニング悩殺キラースマイルすら
今の私には、効果がない。

「うん、沢山来てくれるといいね」

大希くんは、笑顔で教室を出て行く。
1人で。愛美をおいて。

あの人は、実行委員会の幹部になってるから
今日は全体の仕事にかかり切り。
愛美は、教室でクラスの手伝い。

私に手を振って、出て行くあの人は
本当にかっこいい
いつまでも、私の憧れ。
だから、ずっとそのままで
いてほしい。

愛美は今日、学校に来ていた。
休むかなーなんて、思ってたけど
それはしなかったみたい。

「みなみ、こっち、
 一緒に運んでくれない?」

「うん、いいよ」

目も腫れてないし、寝不足でもなさそう。
昨日私が見たあれは、幻のほうがいい。

2人で並んで、壁に貼り付ける手作りの紙の鎖
そうだよね、
今、自分がどんな気持ちでいるのかなんて
どんな精神状態かなんて、
愛美以外の人間にとって
それは、全く関係ないことで

だからみんな、空気を読んで
この場の空気を汚さないように
振る舞うんだから。

「やっぱ、この中で
 私のつくった花が、一番きれいだね」

「そんなの、みんな一緒じゃない」

「いいや、私の作ったのは、コレだから!」

壁に貼られた花の一つを指さす。

「そんなの、段ボールに入れてあったのに
 誰がつくったのかなんて、分からないし」

愛美が笑った。

ありがとう。笑ってくれて。

あとは、机を並べたり
ポスターやビラの準備をしたり。

あの人が、クラスに戻って来た。

一樹たちがなにかやってるところにしゃがみ込んで
話しをしてる。

「よぉーしっ! 
 後は、明日の本番だね!」

大きな声をだして、
クラスの注目を集める。
一斉に、笑いが起こった。

「横山さんは、明日の当番は
 どうなってるの?」

「朝イチ!」

そう言って私が親指を突き立てると
大天使ヒロキが笑った。

「イエィ~イ!」

私は両手をあげて、大天使ヒロキにもハイタッチを要求、
謎のハイテンションにも、この人は応えてくれる。

パチンと合わせた手をそのまま
私は愛美に向ける。

愛美は、一瞬たじろいたが
それでも両手をあげた。

愛美ともハイタッチ。

「イェ~イ!」

その横を偶然通りかかった紗里奈ときらら、
酒井地蔵にもハイタッチしたら
流れ的に、みんなとハイタッチするでしょ

そのままの流れで
クラス全員とハイタッチ、
せいしゅんだからね
ほら、した。

クラス中に、その輪が広がっていく。

愛美とあの人が
ちょっと恥ずかしそうにして
それでもぎこちなく手を合わせるのを
横目にでも見られたから、満足。
私は、教室を出た。

「すごいテンションだね、
 横山さんが、そんなに学園祭好きだとは
 思わなかった」

松永の声に、振り返る。

「学園祭は、好きだよ」

今はそう答えるべき。
それ以外の台詞を、私は知らない。


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