いちごのきもち
§34:影絵の王国

学園祭当日は、いつもの学校が、
いつもの学校ではないような
特別な雰囲気。

私は朝から、資材の搬入とチェックを済ませ
第一シフトの店番についた。

案外、お客の入りは少なくて
もしかしたら、午後の方が多いのかも。
クラスの数人が、呼び込みに行った。

派手に飾り付けられた、
普通じゃない教室。
周囲からは、にぎやかな声だけが聞こえて
ここには、誰もいない。

「案外、退屈なもんだね」

同じシフトに入った
松永が言った。

「ま、楽でいいけどね」

「なにそれ、昨日の気合いは
 どこにいったの?」

松永は笑ってる。

今日は、愛美の方が、
昨日の私が乗り移ったかのようなハイテンションで、
教室に飛び込んで来た。

「どう? 順調にいってる?」

振り返ると、愛美は次々と
教室の屋台の商品をのぞき込んでまわる。

「お客さんって、どれくらい来たの?」

始まってから朝の2時間で
こんなところに真っ先に来る奴も、そういないだろ。
下では、他にイベント色々やってるし。

「頑張れスタッフー!」

愛美からの、ハイタッチ。
もちろんそれには応えたけど
やられる方は、
めんどくさいもんだな。

「もうちょっと、お店の宣伝してくる!」

そう言って愛美は出て行ったけど、
結局、数人がポツポツのぞきにきたくらいで
私たちの当番時間は終了。

「ねぇ、体育館のイベント
 見に行って見ない?」

フリータイム、
松永に、そう誘われなくても
もちろんそうするつもりだ。

あの人が、今年の全校イベント
実行委員会主催の公式行事、初日午前の司会担当だから。

「行く」

松永と並んであるく、華やかな廊下
本当にここは、お祭り会場みたいだ。

「ねぇ、影絵の王国だって、
 ちょっと寄ってみない?」

大希くんがが司会を務めるメイン会場
その体育館へ向かう途中で見かけた教室を
松永が指さした。

こいつは、そんなメルヘンなものに
興味があったのか?

松永が私の制服の袖をそうやって引くから
ちょっとだけ寄ってみる。

カラーセロファンで作った
繊細な切り抜きと、童話の世界。

「きれいだね」

「うん、上手に作ってる」

そっか、このクラスは、
担任が美術だから、
こういう展示に気合いが入るんだなー
なんてのんきなことを思っている場合ではない。
体育館に行かねば。

「じゃ、行こっか」

「うん」

時間をロスした。
やっと歩き出したと思ったら
今度はりんご飴の屋台に
松永が引っかかる。

「うわ! おいしそう!
 ちょっと買って行こうよ、
 一本買ってあげるからさ」

「うん、食べる」

買ってあげると言われたら
それを断る理由はない。

松永と2人、廊下でりんご飴をかじる。
……。松永、もっと急いで食え。
そうでなくても、りんご飴は
食べるのに時間がかかる。

はい、りんご飴は好きですよ、
あぁ好きですよ、好きですよ。
だが、私が行きたいのは
体育館!!

「ねぇ、体育館、食べながら行こうよ」

「え? うん」

松永に買ってもらった飴をかじりながら
やっと歩き出す。

「のど、乾かない?
 お茶買っていい?」

「いいよ」

松永は、廊下に備え付けられた
自販機でお茶を買う。

寄り道ばっかりしやがって、
私が行きたいのは、体育館!!!


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