いちごのきもち
§57:いいわけ

そして私は、なぜか大希くんと2人で
今日は帰っている。

「ほんっと、久しぶりだよね」

「うん」

そんなこともないような気もするけど
とりあえずここは、この人に合わせておく。

「で、松永とは、ちゃんとつきあい始めたの?」

だから、この人と2人きりになるのは嫌なんだ。
まったくもう。

それにどう答えるべきなのか
もうちょっと、自分でもうまい言い分けを
考えておくべきだったのか
それとも、こんなストレートな質問を
投げかけてくるこの人が悪いのか

「つき合って、ないよ」

もし仮に、それが本当だとしても、
そんなこと、この人に向かって言えるわけない。

「え? つき合ってくれとか
 言われなかったの?」

「そんなこと、松永が言うわけないし」

そうやって言ったら
この人は、とても不思議そうな顔をした。

「そっか、絶対、告白してくると思ったのにな
あの後で」

そんなことを平気で言うから
私もちょっと意地悪したくなる。

「それってさ、
 もし松永が告白してくるつもりでいて
 それでもまだしてなくて、
 これからしようと思ってたんだったら
 川本くん的には、相当ヤバくない?」

はは、困ってる困ってる。
ザマー見ろ。
それが脳天気でいることの、罪だ。

「い、今のは、松永には内緒にしといて」

「なんで?」

「なんでって、俺が勝手に
 そう思ってただけだし」

不思議だ。
この人は、なんでそんなことを
思ったんだろう、考えたんだろう。
だけど、私の意地悪は、成功した。

「じゃあ、川本くんは……」

『好きなひとがいるの?』って、
聞こうとしてやめた。
もしかしたら、この人は
愛美のことを、まだ想っているのかもしれない。

愛美に新しく彼氏ができたことに
少なからずショックを受けていた
この人だから。
今は、その話題には、触れないようにしよう。

「じゃあ、川本くんは、うちのクラスで
 そのカップルが、一番いいと思う?」

「そんなの、興味ねーよ」

この人は、顔を上げて、前を向いた。
その横顔は、少し怒っているように見えた。
私だって、バカな質問をしたと思ってる。

「俺は、横山さんと、松永のカップルだと思うな」

「だから、つき合ってないって」

本当にバカな質問をしたと、思ってる。

「私は、川本くんと、愛美のカップルだと思うな」

「だから、もう終わったんだって」

「本当に?」

「たぶん」

「未練は?」

「持ちようがない」

どうして、私はこの人と2人きりで歩いて
こんな話しをしているんだろう。

不思議だ。


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