いちごのきもち
§60:誘われるから

学校が終わって、教室を出ようとしたら
ふっと松永が隣に並んだ
そうだ、一緒に帰る約束を
今日もしていたんだった

そのまま、何も話すこともないまま
階段を降りて、靴箱に向かう

2人で並んで、無言で歩き
校門の外に出てから、
ようやく松永が笑った。

「今日も、公園行く?」

最近、松永と私は、学校を出てすぐの
小さな児童公園で
飽きるまでだらだら過ごす。

とりあずベンチに座って鞄置いて
プラスチックに刻まれた
木目の年輪の数を数えたり
誰かの悪口言ってたり

この日は、落ちていた枯れ葉を拾って
どこまで遠くに吹き飛ばせるかの
遊びをしていた。

私が思いっきり息を吹きかけて飛ばした枯れ葉を
松永が拾ってくる。
それを交代して、順番にやる。
遠くに飛ばした方が勝ち。

私が飛ばした何度目かの枯れ葉を、
松永が拾いに行ったとき
あの人が突然現れた。

「……。お前ら、なにやってんの?」

「枯れ葉飛ばし!」

「枯れ葉飛ばし!」

私が速攻で答えたら
その後で、松永は秒で答えた。

「あっそ」

そんな息のあったくだらない遊びに
完全に引いてる大希くんは、
それでも私の隣に座った。

「どうでもいいけど」

松永も、私の隣に座る。

そこから、この人は、学校の話しを始めた。
特に聞いておくことでも、
聞かなくてもいいような内容で、
ただしゃべりたいだけの
おしゃべりみたいな、かんじだった。

なんでこの人はここに来て
そんな話しを聞かせるんだろう
そんなことを、私はずっと考えていて
ふと横を見たら、
松永は、手にした枯れ葉をじっと見ているから
こっちも何を考えてるかも分からない。

あの人が、ふいにため息をついた。
私はどうしても、この人の事が気になってしまうから
ついこの人にばかり構ってしまう。

「なに、どうしたの急に」

自然と体も左に傾いて、
やっぱりどうでもいい話しばっかりだったけど、
気がつけば、この人とばかりしゃべっていて
松永は、のけ者にされていた。

「俺、もう帰るわ」

ふいに松永が立ち上がって
ようやく、そのことに気づく。

松永は、私を見下ろして言った。

「帰ろ」

手こそ差し出してはいないけど
松永は私に立てと言っている。

「ね」

それなのに、どうしても頭はくるりと左を向いて
この人の顔を見てしまう。
この人の、意向を確認する、

「じゃあ、帰ろっか」

そう言ってくれて、助かった。
私が立ったら、この人も立った。

松永が歩き出す。

松永は、1人でさっさと先を急いで
私とこの人は、その背中を見ながら、
並んで歩く。

「なんか、邪魔だった?」

「そんなこと、ないよ」

松永も、きっとそう思っているはず

「じゃ」

ふいに振り返った松永は、
私たちをおいて、先に行ってしまった。

その走るように、消えていく松永の背中を見ながら
この人は言う。

「ねぇ、なんでいっつも
 松永と帰ってんの?」

「さぁ」

だよね、やっぱりみんな、そう思うよね

私も不思議。


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