Only Three Months
FAREWELL
大して眠れないまま迎えた、送別会の朝。
サーの奥さんが用意してくれたタキシードを着て、庶民学校へ送ってもらった。

さすがのオレも、タキシードを着ない理由がない。
教師に文句を言われたくない。

生徒たちの視線が痛い。
いつもなら茶化してくるエドも、黙ってついてきてた。

交流会のときと同じ、壁際。
アリーが座るはずの台座を眺める。


「…マイク、震えてるよ」
「知ってる」


“姫”が来るのに、以前のような雰囲気はない。
盛り上がってるムードではないんだ。

みんな、オレが犯罪者なのを分かってる。
見てくるけど、オレと目が合いそうになると逸らす。

静まり返った会場に、空気を読まない執事の声。


「みなさま、お待たせいたしました。
 アリシア・バイオレット姫様のご入場です」


前は、歓声と拍手で会場がうるさかったのに。
今日は、拍手だけ。
エドはもちろん、オレも拍手をして。

アリーが台座に座るまでの動作を凝視。
痛がる仕草はないかって思ったけど、今までの公務もあの傷がありながら普通にやってたんだ。
特に、変わったところはなかった。


「お姫様より、ご挨拶です」


アリーが立ちあがって一歩進んで、前を見る。
目を閉じて、ゆっくり一呼吸おいて、話し始める。


「私は今まで、城以外の場所で生活したことがありませんでした。
 好奇心だけでの行動で、みなさまに大変なご迷惑・ご心配をおかけしたこと、
 本当に申し訳ありませんでした」


アリーが頭を下げる。
執事が慌ててる。
王族が、庶民に謝罪するとか、今まであったか?

アリーがそういう行動をするのは理解できる。
国王がこれを見たらアリーはどうなる?
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