ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


想史と一緒に歩いた時は、それほど長い道のりだと思わなかった。なのにひとりになった途端、途方もなく長い道のりに感じられる。

ああ、私は心細いんだ。それだけ、隣にいた想史の存在に勇気づけられていたんだ。そう実感しながら、慣れない自転車をこぎまくる。

空を見上げると、だいぶ暗くなってきていた。通りすがる車がライトをつけ始める。もうそろそろ、月が見えてくるかも。

息が切れて呼吸が苦しい。喉はカラカラで、足はもう感覚がない。上半身を支える腕も痛い。そんな頃ようやく、想史と渡った川の橋が見えてきた。


「すごい……」


橋の真ん中で問題の川を見下ろす。さっきまで猛威を振るっていた台風のせいで、コスモスがなぎ倒されている。まるで巨人が足を引きずって歩いたかのように、コスモスたちは同じ方向に根元から倒れていた。

川はごうごうとうなるような音を立てて、凶暴に流れている。水位と勢いを増したそれは、見ているだけで恐怖を感じた。


「うわあっ」


橋を渡り切って、川辺に到達したとき、油断した。べちゃべちゃだった靴が滑って、ペダルから足を踏み外した。バランスを崩し、自転車ごと派手に土手に通じる階段を転げ落ちる。


< 155 / 179 >

この作品をシェア

pagetop