ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


「あのなあ、非常事態だぞ。いいから行け。俺が合図したら、すぐに」


そう言って想史はハンドルを私に預ける。


「こら、早くついてこい!」


既に何歩か先を行っていた体育教師が振り返って怒鳴る。


「はーい」


想史が軽く返事をすると、体育教師は前に向き直る。


「行くぞ。いち、に」


心臓がドキドキと脈を打つ。後ろにパトカーがいるのにも構わず、私は自転車に跨った。


「あっ!」


教頭先生が気づいたようだ。体育教師がこちらを見ようとした瞬間、想史が駆け出す。そして、体育教師に抱きつくようにして道を開けてくれた。


「こらお前、なんのつもりだっ」


屈強な教師に突き放されまいと、その太い首に絡みつく想史。


「行けっ、瑠奈。早く!」


仕方ない。想史がせっかく作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかない。


「想史、ごめん!」


決心して地を蹴る。ペダルをこぎ、スピードが出てきたところで立ちこぎに変えた。

風は相変わらず強い。スカートが腰のあたりでひらひら揺れているみたいだけど、気にしている暇はない。

想史と歩いた記憶をたどりながら、田んぼの脇の道を行く。水たまりも避けず、泥を跳ねて、川までの道を疾走する。


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