檸檬の約束
「気が付いたのか。」

知らない男性だった。

いや、どこかで見たような気もする。

「・・・覚えてないんだろうな。」

(ええと・・・あっ。)

記憶の糸を手繰り寄せて断片に男性の姿があることを確認する。

「branにいた、おじさんっ。」

「35歳をおじさんと呼ばないで欲しいんだが。」

(もしかして・・・しちゃった?)

その辺りの記憶は曖昧で思い出せなかった。

私が思い出そうとしているとおじさんは笑った。

「想像が顔に出てる。」

「・・・何もしてないよ。」

「そっか。」

(とりあえず、良かった。)

(でも私、どうしてココにいるんだろ?)

どうやらここはおじさんの家らしい。

部屋の中にはソファとテーブルだけがあった。

「キミが行くところがないってバーで泣きついてきたんだ。」

「ええっ。」

全く記憶になかった。

(酔っていたとはいえ・・・知らない人に泣きつくなんて)

「私、帰ります。」

「おじさん、泊めて下さってありがとうございました。」

「・・・帰れるのか?」

おじさんは心配してくれているようだった。

(私、何を話したんだろう)

「謝れば許してくれると思うし・・・。」

(本当は許してくれないと思うけど)

「だったら、これを持っていくといい。」

おじさんが手渡してくれたのは鍵だった。

「家の鍵。もし帰れなかったらここに来るといい。」

「帰れたら後日にでもポストに入れておいてくれ。」

「おじさんは私が泥棒しちゃうとか思わないの?」

「基本的に性善説を信じてるから。」

「性善説ってなに?」

「人の本性は善であるってこと。」

「ふうん。」

よく解らなかったけれど私は鍵を財布の中にしまった。

「じゃあ帰るね。」

「ありがとう、おじさん」

私は家に向かった。
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