極悪のHERO
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彩葉は教室へ入った。 一年一組。 一応、 部類としては特進クラスに値しているクラスだが、 彩葉はクラス内では順位が低いほうだ。 学年全体のトップクラスであるけれど、 その中では順位が下の方。 もうすこし勉強ができるようになりたいなぁと、 日ごろから考えてはいるが、 同時に別にそこまで勉強ができなくてもいいかなぁとも思っている。
席は後ろの方。 窓際だ。
机の上にカバンを置いたら、 茶髪に染めたボブカットのフワフワした女子生徒が話しかけてきた。

「いろはちゃん~はよ~」
 常日頃から眠そうな表情をしている彼女は白川 柚子(しらかわ ゆず)という。 彩葉が妙石高校に入学した時から仲のいい生徒だ。

「柚子、 おはよう」

朝から起こった非日常性とは違い、 いつも通りの挨拶だった。

──なんていうか、 柚子と話していると落ち着く

「いろはちゃん? なんか今日は雰囲気が違うね~」

ポヘーとした、 何とも言えない表情のまま、 柚子は彩葉に尋ねる。

「ひょっとして~いろはちゃん、 好きな人でもできちゃったのかな~」

「!?」

「んーん。 好きな人って感じじゃないね~。……えーっとぉ? 気になる人っていうか、 単純にカッコいい人を見かけた? うーんこれも違いそう……。 しーていうなら、 少女漫画的に、 交差点でぶつかって運命的な出会いを果たしたはいいけれど、 相手の素性が何もわからなくてモヤモヤしてるって感じが一番近いかなぁ~?」

──柚子……この子一体何者?

 4月に入学して現在7月。
 3か月目にして初めて見る、 柚子のとんでもない洞察力にびっくりする。

「へぁ?」

思わず変な声も出てしまう彩葉。

「正解かなぁ~」

柚子はそんな彩葉を見て、 にへら、 とぽわぽわした笑みを浮かべるのだった。

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