極悪のHERO
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「ついたぁぁぁぁ~‼‼‼‼‼」

 ガタン、 と大きな音を立てて保健室の扉を開く。

──うん。 なんとか金髪さんを連れてこれた!

いくら急に引っ張ったとはいえ、 抵抗されてしまえば相手は男子、 保健室まで連れてくることは不可能だっただろう。 彩葉が保健室まで一直線に金髪の生徒を連れてこられたのは、 金髪の生徒本人が一切の抵抗を見せなかったからだ。
 突然の来訪者にも驚かない理香。

「霖先生! おはようございます! いきなりですが、 彼を診てください!」
 
「おはようございます。 白露さん。 また、 怪我をした生徒を連れてきたのね」

 バック走のような形で金髪の生徒を引っ張り続けた彩葉は、 ここで初めて事故にあった人間を走らせてよかったものかと、 一抹の不安を持つ。

 ──まあ、 着地してたし、 怪我なさそうだから大丈夫だとは思うけど……。

 「白露さん。 それで彼は?」
 
 「え、 あ。 この人、 車に思いっきり轢かれてたんです! それで、 足から着地をしてたんですけど……あの、 交通事故に合ったらまずは病院って……おも……って?」

 徐々に自信がなくなっていく彩葉。 そういえば、 ここまで必死になる必要もなかったかのようにも思える。 確かに、 交通事故にあった人をそのままにしておくわけにはいかない。 それはそうとして、 それでも本人の意向を無視してまで、 それも半強制的に、 病院ではなく保健室に連れてきて。

 ──あれ、 私。 なんでこんなに必死に?

「ふぅん。 ……ああ、 彼ね」

 理香はそう独り言のようにつぶやいた。

 「それで……金髪の彼が車に轢かれたってことでいいのね?」

 今度は彩葉に確認するように話しかける。
 
 ──んん? 霖先生は金髪のこの人知っているのかな。
 少々疑問にも感じながら、 「はい」とだけ返事をした。
 彩葉もいろいろと、 思うところはあるけれど、 間違った選択ではないはずだ。 心象的に、 自分が必死になっていたことが引っかかるのだが。

 「それじゃ、 すこし診てみるから、 白露さんは教室に戻ってもいいわよ」
 
──え。 私はこれで終わり? なんていうか、 もう少し彼のことが……

 気になる、 知りたい。
 車に轢かれても無傷で済むあの運動神経。
 『醜悪の美女』霖 理香の目以上に死んでいるあの無感動の瞳。
 そして、 彼の傍にいるとなぜか身体が勝手に動くその理由を。
 気になる……。 けれど、 先生にそう言われて、 いや私はまだここに居ますって言うのも不自然だ。 結局、 彩葉は引き下がるしかなかった。

 「……はい。 霖先生。 後はよろしくお願いします」

 そう言い残し、 保健室を後にした。

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