「先生、愛してる」


零れ落ちる涙は留まることを知らず、いつまでも頬を濡らし続ける。


空は既に藍色に染まり、一日の終了時刻が迫ってきていることを実感させられる。


足元もおぼつかない状態で、私はゆらゆらと歩き続ける。しばらくすると、一つの場所に到達した。それは、自分の通う青華高校の前だった。


「先生…」


力なくぽつりと呟いた。
時刻にして十九時二十三分。そんな時間に彼がまだここに残っているという確証は無かったが、頼りがそこにしか無かった私はしばらく高校の前で彼が出てくるところを待つことにした。

もう、あの家に戻ることは出来ない。あんなおぞましい空間に身を置くくらいならば、どこかで死に絶えた方がまだ良いとも言える。


この時間では、もう学校の中には入ることはできない。外から図書室の窓が見えればいいのだけれど、生憎他の校舎で阻まれてわからなくなっている。いつまでここにいるのかという考えすら放棄して、運試しのように門前で待っていた。


しかし、いくら待っていても、門から出てくる教師は希望する人物ではない。時刻が二十時を回って、更に三十分過ぎた頃、ようやく学校の前から離れることにした。


瞬間、ぽつぽつと空から落ちてきた雨粒が体を打った。ゆっくりだった音も、次第に勢いを増して大雨へと移り変わった。そういえば、今日の夜は雨の予報だったっけと思いながら、身を守る場所を探して駆け出した。


急いで近くの公園へと入っていく。
屋根付きのベンチへ腰掛けると、しばらく、何をするでもなくただぼうっとしていた。


今日はとことんついていない。降りゆく雨はまるで自分の心模様のようだ。髪も制服も雨水を含んでぐしょぐしょで、頬に滴る水筋は涙か雨か区別がつかない。

スカートの裾を絞って、染み込んた雨水をコンクリートの地面に落とした。


< 29 / 104 >

この作品をシェア

pagetop