願いごと、ひとつ。
「友達のままの方が良かったのかもね……」
 
 ひとり言のように呟いた私に、桐子と香織が訝しげな視線を向けている。

「私の話より、桐子はどうなのよ? 誰か気になっている人とかいないの?」
 
 突然話題の矛先を自分に向けられ、動揺したのか、桐子はアイスコーヒーを口に運ぶ。

「あ〜。私もそれ聞きたいですぅ〜」

 香織が身を乗り出して追い討ちをかけた。

「別に、いないよ」

 否定はしているけれど、桐子は視線を背けている。

 私は確信した。

「あ〜! いるんだ! 誰!? まさか社内の人?」
 
「もう、別にいないんだってば! ほら、もうそろそろ戻らなきゃ」

 桐子は伝票を手に取ると、逃げるようにレジへと向かう。

「ま、言いたくなったら自分から言うでしょうよ。さて、仕事に戻るよ、香織」

 私は香織に言うと桐子の後に続いた。


 何故、私はこの時気がつかなかったのだろう――。


 桐子は確かに恋をしていたのだ。



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