願いごと、ひとつ。
「てゆうか、彼氏さんの方が、結歌先輩より気持ちが大きいんだと思います」
 香織はおっとりしてるように見えて意外と鋭い。私は自分の心の内を見透されているような気がして、目を逸らした。


 そういえばもう二週間は孝志に会っていない。
 普通付き合って半年程なら、毎日会っても飽き足らないくらいでも良さそうなものなのに、この冷め具合はいったいどうしたことだろう。自分でもわからない。

『ほんとにおまえは冷たい女だよ――』

 確か二週間前、私の部屋でテレビを視ながら呟いた孝志の言葉を思い出した。


「友達期間が長かったんなら、信頼関係も固いはずじゃない。何の不満があるのよ?」

 桐子は半ば私を責めるような口調で言った。

「まぁ確かに大学の頃から知ってるけど、卒業してからあんまり連絡もとってなかったし……そんなに仲が良かったわけでもないよ」
 

 孝志と私は同じ大学のサークル仲間だった。知り合ったのはもう九年も前の話になる。
 学生の頃は仲間内で遊んだりもしていたけれど、異性として意識したことはそれほどなかった。
 孝志が私のことを気に入っているらしい――という話を友達に聞かされてから、私は孝志を避けるような態度をとってしまった。
 卒業後はそのままなんとなく疎遠になっていたし、その間、孝志に彼女がいたということも知っている。
 それが半年前、たまたま顔を出した飲み会に、孝志が来ていた。
 
 私はちょうどその夜、五年も続いた恋に終止符を打ったばかりだった。

 いや、『終止符を打った』なんてカッコイイものじゃない。


 私は捨てられたのだ。
 
 


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