例えば君に恋しても
手招き





「綾瀬さん仕事は慣れた?配属先の人達はみんな良い人?」


仕事帰りの絢香は、銭湯にでも寄ってきたのか首から下げたタオルにショッートカットの毛先から雫を落としている。

良い人かと聞かれても、基本、ほとんど新一さんとしか過ごしていない私は、悩みながらも頷いた。


洗濯機のスターとボタンを押して、その場に絢香と二人で並んでしゃがみこむ。


なんと言えば良いのか、今日の絢香はいつもと雰囲気が違っていて、普段から可愛いけれど、より可愛らしく見える。


「何か良いことでもあった?」

聞いた私に「分かる?」と、嬉しそうな笑顔。

「実はね・・・彼氏がね・・・」

「彼氏、いたんだ」

絢香に彼氏が居たのが意外だったのではなく、私なら彼氏がいれば、こんなぼろアパートなど出てくのに。という意味で驚いてしまった。


でも、絢香はそんなこと気にすることもなく恥ずかしそうに微笑みながら頷く。

それは恋をしている女の子の特別な表情。


「まだ付き合って1ヶ月なんだけどね。

さっき、久しぶりにデートしようって連絡がきたの。」

「これから?」


最近の私にとって夜の21時はもう、深夜に近く感じる。

それほど歳も離れていない絢香を若いな。なんて思ってしまうということは、この数ヵ月で私の心がどんどん老けてしまった証拠だ。




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