例えば君に恋しても
「うん。なんせこのアパートだからさ、迎えに来てくれるって言うから憂鬱なのよね・・・。
彼には見せるのも恥ずかしいくらいとは、念を押しておいたんだけど。」
ため息混じりに呟く絢香に、私はこの廊下を見渡して頷いた。
住んでる部屋がどうとか、あまり関係ないかもしれないけれど、やっぱりステータスだ。
しかも、このアパートの部屋なら何をしてても、そう・・・ひそひそ声すら隣の部屋に聞こえてしまうんじゃないかと思うほどの薄さの壁。
例えどんなにアパートの住人と分け隔てない関係を築いていたとしても、恋人を呼ぶには遠慮してしまう。
「迎えに来てくれるだけなんでしょ?それとも絢香の彼氏は、彼女の住んでる部屋がボロいと恋心さえ冷めてしまうような、心の狭い人なのかしら?」
冗談混じりに呟くと、少し考える素振りを見せながらも「そんなことはないと思う」と自信なさげに笑った。
「大丈夫だって」
彼女の背中を軽くポンッと叩くと同時に絢香の携帯がメールを受信した。
「彼だ。もう来たみたい。」
メールを見るなりパッと立ち上がった彼女は、首にかけていたタオルを慌てて外し、胸の前でぎゅっと握りしめる。
「行ってらっしゃい」
私の言葉に幸せ一杯の笑顔を浮かべて集合玄関へと小走りに歩き出した彼女の背中を、洗濯場の入り口の影からそっと覗く。