例えば君に恋しても

「そうそう。僕が君に会いに来た理由なんだけど・・・」

今の話に深くツッコまれたくないのか突然、話を変えながらスーツのポケットをまさぐりだす。

この人に関してはセンチメンタルとは縁遠そうだ。

なかなかシリアスにはなれない。


わざとなのか、天然なのか読めないから腹がたつ。

「何か持ってきてくれたの?」

いつまでもスーツのポケットを探る彼に、首を傾げると「あった。あった。小さいから他のと紛れる。」

そう言って、彼がテーブルの上に転がしたもの。


ころころと音を立ててボールペンのキャップだけ転がった。




頭に浮かぶ疑問符。


思いもよらない代物に、暫く全神経がうばわれた。





「キャップ?」

「うん。キャップだね」

・・・で?



またしても、頭に浮かんだ疑問符。


暫くして、ようやく彼の顔を見上げると「君の落しもの」と嬉しそうな笑顔。


落とし物。

そう言われてみれば、今日、ボールペンのキャップをどこかで紛失したけれど・・・


まさか

これを届けるためになんて

口が裂けても言わないでもらいたい。

何も言えず、彼の出方を待っていると

「こんなもの、明日渡してくれればいいなんて言わないで」と先手を打たれた。


じゃあ

なんて言えばいいのか・・・

「ありがとう?」

動揺のあまり、疑問形でお礼を言ってしまったのは

仕方ないことだと受け止めてもらいたい。


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