うつりというもの
その帰り道、遥香のケータイに忍から着信があった。

「忍ちゃん、どうしたの?」

『ちゃん言うな』

「用がないなら切るよ」

遥香は真面目な口調で言った。

『あるある!切るなよ』

「冗談だよ。で、なに?」

遥香は忍の慌てた感じに吹き出した。

『なあ、赤井さんの言ってたことだけどさ』

「ん?」

『おまえ、本当に東京、離れてろよ』

「忍ちゃん…」

『慈空さん達でさえ殺されたんだ。俺にはおまえを守る術がないんだよ。頼む。しばらく東京を離れていてくれよ』

「だからこそ…無理だよ」

遥香は忍の気持ちがうれしかったが、そう言った。

『え?どういうことだよ』

「私が何とかするしかないと思う」

『おまえ、何をする気なんだよ?』

「あ、大丈夫。私は頼むだけだから」

『もしかして、あの女の子の霊にか?』

「うん。ダメだろうけどさ」

遥香は笑った。

『おまえが、直接何かをするわけじゃないんだな?』

「当たり前だよ。できるわけないじゃん」

『そうだよな…』

「でしょ?」

『分かった。無理するなよ?』

「うん」

『俺に何かできる事があったら言えよ?』

「うんうん」

『本当だな?』

「うん」

『分かった』

忍が溜め息まじりに言った。

「忍ちゃん」

『なに?』

「ありがとう」

いつにもなく、遥香は優しく言った。

『いや、別に…』

忍は照れた。

「じゃあね」

『ああ、お休み』

「お休み」

遥香は電話が切れてツーツーとなる音をしばらく聞いていた。

「忍ちゃん、ありがとね」

遥香は、また、思いを強くした。
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