うつりというもの
教授は自宅の書斎で、今日住職が言ったことをずっと考えていた。

うつりの正体。

首が身体を求めるのは必然。

でも身体を奪いながらも、そこで終わらない。

次々と移っていく。

それをどうくい止める?

いや、今は慈澄さんが命を懸けた結界で、また止まっているのかもしれない。

その結界があるうちに、退治しなければ、また被害者が続くことになる。

うつりが住職が言った存在だとすると、一体誰が退治ができるのか…

いや、退治という言葉を使う事自体間違っている。

人間がどうこうできるわけがないということになる。

「悪気がない…か。確かに、それが一番恐ろしいよ」

教授は誰もいない書斎で呟いた。


トントン。

教授はドアの方に顔を向けた。

「お父さん、まだ起きてるの?」

季世恵がドアを開けて顔を出した。

「ああ、もう寝るよ」

「そう。じゃあ、お休みなさい」

「あ、季世恵」

季世恵はドアを閉めようとした手を止めた。

「なに?」

「今までいろいろありがとな」

「え?何よ。別に大した事してないし、大事なところでは気絶してるし…」

後半は小さな声で言った。

「もう、おまえはこの件に関わるな」

「え?どういう事?」

季世恵がドアを開けて書斎に入ってきた。

「もう、俺達にできることはない。後は結界が効いている事を祈るだけだ」

「お父さん…」

「本当に、俺達にできることは、ないんだ…」

少し遠い目をして言った教授に、季世恵は何も言えなかった。

それに、明日からは新学期が始まってしまい、言うほど自由な時間も取れないのも確かだった。
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