うつりというもの
第10章
9月 山形県山科家


山科晶子は、母聡子に言われて蔵の掃除をしていた。

晶子はうつりの絵のある辺りを一旦降ろして棚を拭いた。

後は一つずつ箱の埃を取って戻していく。

最初の箱を戻す時に、ふと、この前の様に誰かが見に来ることもあるかと思った。

それでもう一度中身を確認しておくことにした。

拭いて戻しながら中身を確認していくと、白木の箱には何も書かれていない物があった。

「これ、中は何の絵だったかしら」

前は特に気にした事がなかったので、気が付かなかった。

蓋を開けて、中の絵を広げてみた。

その絵は前にも見ていたが、つい最近の記憶に重なった。

「この色彩と絵柄…もしかして」

晶子は、その絵とうつりの絵の箱を持って母屋に戻った。

お座敷の座卓の上に2つの絵を広げてみた。

うつりの絵の左側と、もう一つの絵の右側がきれいに繋がった。

「やっぱり」

思ったとおり、それは元々1つの絵だった。

「うそ…」

すると、その絵の意味する事が、今まで思っていた事とまるで違っていることになる。

晶子は聡子を呼びに行った。
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