うつりというもの
中は薄暗いが思ったよりも壊れてはいなくて、ただ埃が酷いという感じだった。

その埃で、ここを出入りした者の足跡はすぐにわかりそうだった。

特に家具とかかがあるわけでもないので、意外と広く感じた。

三田村の背中が右手の薄暗い廊下の先の部屋に向かっていた。

赤井はその後を付いて行った。

部屋の入り口で立っていた制服警官が赤井たちに敬礼した。

「お疲れ」

赤井が軽く手を上げて言った。

「主任、これですよ」

「おい」

遺体をまるでモノみたいに言った三田村を少し睨んだ。

「あ、すみません」

赤井は、目の前の遺体に手を合わせた。

三田村もバツが悪そうにだが、手を合わせた。

その儀式が終わると、赤井はその女性の遺体を見た。

白っぽいワンピースを着ていて、長い黒髪、色白の20代後半の女性。

壁に背中を預けて座り込んでいた。

ベージュのパンプスを履いたままだった。

赤井は薄暗い部屋を見回した。

元は寝室かもしれないが何もない。

ここにある新しい存在は、この遺体だけだ。

特に争った痕跡もないし、バッグなどの遺留品もなかった。

赤井は、他で殺されてここに運ばれたのだろうと思った。

ただ、赤井はその遺体の表情に違和感を覚えた。

三田村もだった。

「なんで仏さん、笑ってるんですかね?」

三田村が言ったが、赤井はそれは違うと思った。

ホッとした…

そんな感じだった。

死にたかったのか?と、思ったが、それも何か違う気がした。
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