甘え下手の『・・・』
エレベーターを降り、早足でエントランスを抜ける。

イライラする。

簡単に筧くんに触れて甘えられる今井さんに。
何も答えていないくせに、何もうごいていないくせに。
そんな今井さんに嫉妬している自分に。
そんな資格がないのは承知しているのに。

「相沢」

低い声と冷たい手が私の歩みを止めた。いつの間にか追い付いた筧くんが私の手首を掴んでいた。掴まれた右手をただ見ていて何も言わない私に筧くんはため息をついた。

「…行こう」

手はすぐに離され先を歩き始めた筧くんの後ろを黙ってついていく。

もうおしまいだな。どちらにしても私は筧くんを失ってしまったのだ。もう前のように同期としても仲良くなんていられない。筧くんのため息が私にそう宣告したような気がした。

真由香、ホントだね。
離す前に、まだつかんでもいないのに終わっちゃったみたい。
後悔って何もしていないのにしていいのかなぁ。

泣きたくなる気持ちを抑え背中を追いかけた。
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