鈍感過ぎる彼女の恋は。《完》
私は入口に背中を向けてる状態なので、誰が入ってきたかわからない。

慌てて離れようと高本の腕を引っ張る。
けど、いくら力を入れてもその腕は言うことを聞いてくれない。

完全見られてるよね、この状態。

さすがにヤバイと言おうとした時、信じられない人物の声が響いた。




「返してもらおうか。」



低く響く声の主は、私のよく知る人物で、
この涙の、主な原因。

婚約者の話しを思いだし肩に力が入る。


「蓮水社長、小笠原は貴方の所有物ではないですよ?」

そう言うと高本は更に力を入れて私を抱きしめる。


「お前のでもないだろ。」

「今のところね。」


おそらく睨み合っている二人の空気はピリピリしていて、社長と一社員のやり取りではない。


「社長、すぐ行きますので、部屋に戻っておいて下さい。」

お願いだからこっちに来ないで。
泣き顔なんて絶対見られたくない。

こんな勘違い女の恥ずかしい姿なんて見せたくない…。


私は振り向くこともできず、そう言うしかなかった。


背後で悲しそうな顔をしている彼に気づくこともなく。
< 36 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop