もう泣いてもいいよね
「ねえ、香澄」

「なに?」

「裏祭が本当の祭だとすると、表の六ヶ枝祭って、あの六つの枝で子供の安全や健康を祈願するって言い伝えとか、意味がないの?」

「そうだね。六つの枝の言い伝えはでたらめかもしれない」

「それもなんかなぁ…」

「私も子守花の霊力を守るためだけにやってるのに、六ヶ枝祭なんて意味ないって、ついこの間まで思ってたの」

「そうなの?」

「うん。でもね、ばっちゃんに言われた」

「なんて?」

「人々が神社とかで祈願することは、神の御利益をもらうことじゃない、自分自身が、その子供の安全や健康を願う気持ちにそれを成す力が生まれるのじゃないのか?って」

私は香澄を見た。

香澄もうなずいた。

「だから、六ヶ枝祭も必要な祭だと思い直したんだ」

「そうだね。その気持ちが大切なんだよね」


タケルがじっと黙ってるので、見てみると…泣いていた。

「ちょ、ちょっと…なによ?何泣いてるのよ」

「なんだよ。泣いてねえよ」

タケルはすねた顔して袖で涙を拭くとそっぽを向いた。

「なによ?」

私がタケルの顔をのぞき込もうとすると、香澄が私の肩に手を置いた。

私が振り返ると、香澄が顔をゆっくりと振った。


「あ…」

私はハッとした。

そうだった。

タケルのやってきたことは、今の話のそれだ。

私のことだけを祈り続けてそばにいてくれた。

自分の13年間が重なったのだろう。


「ごめん、タケル」

「なんだよ。なんでもねえよ」

タケルはこっちを向かなかった。

私はタケルの肩に頭を載せた。

一瞬、タケルが固まったのがわかったけど、そのままでいてくれた。


香澄は真っ直ぐ夕焼けの景色を見ていた。
 
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