もう泣いてもいいよね
第9章 エピローグ
香澄は、雑貨屋を訪れていた。


「香澄ちゃん、本当にありがとう」

深雪が深々と頭を下げていた。

「ううん」

香澄は軽く首を振った。

「これで良かったのかな?」

「そうね。私は良かったと思ってるわ。親だからかしら…」

香澄は本棚に並んだ皆美の本たちを眺めた。


「あなたの13年間もどれだけ辛かったことでしょうね」

「いえ…」

香澄は、思い出したら、また涙が出そうになったが、目をつむり、気を取り直した。


「最初、皆美の部屋を片付けに行った時に、あなたが、『皆美がいる』って言ったのが信じられなかったけど、夕べは子守花のおかげで本当に皆美に会えた…」


「そのことは…」

「わかってるわ」

「森川家を守るのが中山家の務めです」

「ありがとうございます」

香澄は立場で答えた。


「でも、それもだんだんと跡継ぎがいなくなるわね。大和家といい、うちといい」

「なんとかなるよ」

香澄はいつものぽや~んとした笑顔に戻り言った。

「その顔で言われると、ある意味安心するわ」

「誉められてる?」

「ええ」

深雪は笑った。


「ところで、皆美の最後の作品、どうしたらいい?」

「香澄ちゃんに任せるわ」


「うん、わかった」


香澄は、どうするかは既に決めていた。

霊はそこにあると思っているが、香澄は皆美の書いた物語を見ることはできなかった。

だから、香澄はタケルに読み上げさせ、それをワープロに打ち込んだのだ。



最初、タケルが皆美の死を伝えに来た。

そして皆美が死んだことを自覚してないことも。

新宿駅でストリートライブをやっている時だった。

皆美がいるからタケルもずっと傍にいると思っていた。

だから、これ以上ないショックだった。


でも、やるべきことがあるから、気を取り直した。


香澄が皆美の家に向かうと、深雪が部屋の片付けに来ていた。

その時、既にそこに皆美がいたが、自分が認識しないものは霊には見えないから、香澄も深雪も皆美には見えなかった。


自分が死んだという自覚がない霊は、いつまでも生前と同じように生活を続けていく。

死ぬ時に苦しい思いをして助けを求めながら死んだ霊は、いつまでもその場所で助けを求め続ける。

皆美の場合、即死だったから苦しまずにすみ、土地に縛られなかった。

成仏できないにしても、地縛霊になるより死の自覚がない方がいい。

それは、神様がくれた最後のプレゼントだったのかもしれない。 
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