もう泣いてもいいよね
会社に着いて、エレベーターに乗ると7階のボタンを押した。

その一角に私の所属する編集部がある。

7階に着いてドアが開くと、同じ編集部の同僚が2人エレベーターを待っていた。

「おはよう」

私は声をかけたが、彼女達はちらっと見ただけで無言のままエレベーターに乗って行った。

私は軽くため息をついた。


編集部に入ったところでみんなに挨拶をしたが、同じ様に無視された。


それは、いつものことだ。


上司の席を見たが、もちろんまだ来ていない。

彼女は、ここでは女帝だ。

ヒステリックな面もあるけど、編集長としての能力はみんなが認めている。

ここにいる限り、彼女の上には行けない。

出世したいなら他の編集部に移るか、新刊の企画が無いと無理だ。



自分の席に行くと、机の上のパソコンがなかった。


机の周りを探したが見当たらなかった。


周りを見回すと、みんな知らん顔だった。


「ひどい…」


明らかに「さっさと出て行け」と言うサインだ。


周りとの衝突や嫌がらせが多いのは確かだった。

でも、ここまでされるほどみんなに嫌われているとは思ってもいなかった。



心の中で何かが切れた。私は傍にあった花瓶を払いのけた。

倒れて散らばった花にみんなが驚いて振り返った。


私が、その場に立ち尽くしていると、真奈美がやってきて花を片付け始めた。

彼女は、片付けながら私だけに聞こえる小さな声で言った。


「早く辞めれば良かったのに」


「!!」



ショックだった。


彼女はこの会社で、唯一の友達だと思っていた。

入社が近かった彼女とは、名前も一字違いと言うことで、お互い親近感を覚え仲良くなった。

仕事上でも助け合ってきたつもりだった。



小説家希望だった私は、高校の時に今の出版社の発行する雑誌に投稿した。

新人賞を取り、母の反対を押し切って上京した。

デビューして4年くらい「書かされた」が全然売れなかった。

そして、小説家としてはダメでも、文章力が買われてこの出版社に入った。


途中入社した私が、「仕事をできる女」ではいけなかった。

同じ部署だったから、当然競争はある。

それでも、真奈美はいつも私をかばい、助けてくれていた…


だけど結局、彼女も正規入社組だった…ということかもしれない。
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