もう泣いてもいいよね
第5章 子守花
掃除をしていて良かった。

子守花が咲くはずの満月の夜まで1週間、タケルの実家で過ごすことにした。

香澄は、何度か実家へ戻った。


何も焦ることのない時間…

朝も何時に起きてもいいし、昼間は何をしてもいい、寝る時間も自由。

こんな時間は生まれて初めてだ。

大学に行っていたら、少しは自由な時間だったのだろうが、それでも講義とかあるし、レポートも書かなきゃいけない。

「~しなければいけない」ことがどうしてもつきまとうだろう。

もし、小説家として成功していたとしても、逆に自由な時間は無くなったはずだ。

だから、本当はあり得なかった時間。



私はぼーっと過ごした。

香澄もそれには付き合える性格だ。

不思議だったのは、あのタケルが私に付き合えたこと。

子供の頃、じっとしていることがなかったタケルが、私のそばで何もしないでいられるのだ。

あのタケルを落ち着かせることができるなんて、成長という時間の力は偉大だ。




「タケルは頑張っているようだね」

綾女が言った。

「うん。皆美を一生懸命守ろうとしてる」

香澄はタケルの実家から抜け出して、食事をした後、いつものように綾女に報告をしていた。

「一つ階段を登った。あと二つ階段を登るだけだね」

「うん」

香澄は残りの二つのプロセスを思った。

「皆美には気付かれてないだろうね?」

「気をつけてはいるけど、何かを隠していることはうすうす気付いてるみたい」

香澄は、綾女が少し眉を動かした気がした。

「でも、何も聞いてこないよ」

香澄は力のない声で言った。

「きっと、その隠し事が自分のためだと思っているのだろう。皆美も優しい娘だから」

「そうだね」

「タケルも皆美も、おまえも、それぞれを思い合っている。それはかけがえのない素晴らしさだ」

「わかってる。…わかってる」

香澄はそれがあと少しだということも、わかっていた。
 
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