黄金のラドゥール
水鏡の前。

「お告げ」を手に伝えに走るはずの若い神官は首を捻っている。

ここは代々ラダ王国の行く末を映す水鏡として祀られてきた大きな湖のほとり。
第3皇子のため盛大な婚姻の儀式が行われている最中である。


「ぇえぃ、何をしておる!早く、早くお伝えに行かぬかぁっ!」

神官長ギムリが慌てて催促する。

湖を取り巻くように半円に設けられた豪華な宴席には王族や大臣らが一同に会している。
そこには第3皇子コウジュンはもちろん、今回の儀式の責任者に名乗り出た皇太子リジュンもその顔を並べてしているのである。

神官長ギムリはいらだちを隠せなかった。
あと一息で儀式は成立する。
たった今、自分が「天より賜った」としてある姫の名をしたためこの若い神官に託したのだ。あとはそれを巫女が読み上げさえすれば、この婚姻の儀式は成立となる。
第3皇子の正妃が決まるのだ。

例えそれが皇太子殿下から指示のあった姫の名であったとしても、このラダ国にとって悪い相手ではなかった。多少辺ぴな小国の姫ではあるが、王都への周辺諸国の侵入を防ぐためなど理由は適当に挙げられるだろう。それは私の知ったところではない。
それに私は、これで皇太子殿下という後ろ盾も得られ、今後は安泰のはずである。
神官長ギムリはほくそ笑みそうになるのをしかめっ面で防いだ。

しかし、そのお告げを託した神官はいまだに水鏡の周りをもたもたとしている。

ギムリは再び苛立ちで声をあげる。






首を捻った若い神官は再度首を捻る。

「ですが神官長様、なにか、その、、白いものが、、

水鏡に映っているようでして、、」


「なに?、、っあ!あれは?!」

神官長ギムリは視線を上空へと向けた。

つられて、その場の皆が同じように上を見上げた。

瞬間ーーーー、、


水鏡に勢いよく白い水柱があがった。



悲鳴や驚きの声があがる。


鏡のごとく静かだった湖面は、荒く波を寄せている。




何かが落ちた。


一瞬だったが「何か」が落ちてきた。

それは誰の目にも明らかだった。

誰もが湖面に目を見張った。
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