嘘つきな恋人
駅の少し前で見つけた彼女は上を向いて立ち止まり、
雨に濡れながら涙をポロポロ流していた。

ひとりで泣かせたくない。

傘を差しかけると、慌てて涙を拭いて取り繕おうとするけど、
無駄な努力だ。誰が見ても泣き顔に見えるよ。

どうしたら、1人にしないで済むだろう。
ファミレスでコーヒー?
カラオケに誘う?
とりあえず、同じ電車乗ろうと、家の方向を聞くと、
家に帰れないとため息をついた。

浮気男に今会ったら、丸め込まれて抱かれるだけだ。
俺はそんなことなら、いっそ自分で抱いてしまおうと思いつく。

一晩だけの関係ってことならどうだ?
とやんわり提案したら、呆れて立ち去りそうだったけど、

別れたいなら、俺の手を掴め。

と強い口調で言ってやると、ゆっくり振り向き、
また、涙を落としながら俺の手をそっと握った。

かならず別れさせてやる。

俺はチャンスは逃さない主義だ。
と自分の心を煽って彼女の手をしっかり握る。

もう、話しかけて迷わせたりしないで、

俯いたままついてくる彼女を部屋に連れて帰って部屋のドアに鍵をかけた。
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