嘘つきな恋人
…そんな名前で呼ばれたくない。


「嫌です。」と私が眉間にしわを寄せるけど、

「可愛いじゃん。リン。」と三島さんはにっこり笑う。

「イヤ。」

「照れなくっていいよ。リン。」

「て、照れてません！」

「リン、次何飲む？」

「リンじゃない！」

「バーボンのロック？」

「いつもジントニックです。」

「ドラゴン、リンにジントニックお願いします。」とドラゴンに注文をする。

「リンじゃないって…」と私が頭を抱えると、

「諦めが肝心かな。リンちゃん。ハイ、ジントニック。」

とドラゴンが悪乗りして、

「ドラゴンはリンって呼んじゃダメ」

とか、三島さんが顔をしかめてドラゴンに文句を言ったりする。

とうとう私はこのオトコにリンと呼ばれるようになったみたいだ。



やれやれ。


まあ、今の私に新しい名前も悪くないか。



今日で私の人生は一度リセットだ。

明日の休みはゆっくりして、

明後日から仕事に励もう。

剛と一緒に生きて行く人生は無くなったけど、

私には仕事も、友人も

この店もある。


ついでに、隣でニコニコしているこのオトコも…

しばらく一緒にいるかもしれない。

友人以上、恋人未満って

…こういうことを言うのかもしれない。

と私はあいかわらず王子の雰囲気の三島さんの横顔を覗いた。
< 35 / 138 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop