嘘つきな恋人
「おわった?」

とカウンターで私を待っていたらしい三島さんが顔を出す。

「あいつが今日で終わりにするから、ふたりにしてくれって言ったから、
大人しく待ったよ。
俺って結構いい奴だよな。」

と泣いている私の顔を覗き、頭のてっぺんに唇を付ける。

「自分が捨てたのに、なんで涙が出るんだろう?」と私が言うと、

「そんな悲しい声を出すなよ。
離れられなくなるだろ。」と隣に座って私を深く抱きしめる。

私が声を堪えて、三島さんの胸に顔を押し当てると、

「最初の夜もそうやって眠ったね。
俺が泣かせてるんじゃないのに、
放って置けないオンナだなあって思ったよ。」と私に話しかける。

「今年の3月に仕事場の送迎会がここであってね。
俺はその時、ここが初めてだったんだけど…
ポケットのスマホが鳴って、店の外に電話しに行ったら、
リンがさくらさんに泣きついてた。
『何にもしてあげられなかった。』って言って苦しそうに泣いてて、
今思えば、患者さんが亡くなったんだろうって、
そう思うけど、
自分のためだけじゃなくて、
人の為にも泣いてるんだなって
放って置けない気持ちになった。」

その日は
3月の半ばに長く心臓の疾患で入退院を繰り返していて
懐いてくれていた担当の5歳の子どもが
発作で急に亡くなった日のことだろう。

その日は勤務じゃなくて、
買い物をして外にいて、
仲の良い先輩から急に亡くなったとメールが入って、
悲しくて、
どうしたらいいかわからなくて、
さくらさんを訪ねてしまったのだ。

あんまり、看護師としては褒められた行為でないのかもしれない…

それを見られてたのか…
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