【完】こちら王宮学園ロイヤル部
「わ、花火上がったのね」
近づくと、窓ガラスの向こうでぱらぱらと花火が舞っている。
もともと建物が防音なせいで、音が聞こえないから気づかなかった。
換気扇を回してはいるけれどこの調子じゃ匂いも立ち込めそうだし、と、からから窓を開ける。
その拍子に夏の名残を感じさせる風と、消えていた騒音が室内と調和した。
「お、花火上がってんじゃねーか」
「王学は結構行事関連にお金かけてるわよね。
まだ、このあと体育祭もあるっていうのに」
誰ともなく、空に上がる花火を見上げる。
鮮やかに咲いては、儚く散っていく一瞬の花。
綺麗だけど、どこか切なく感じる。
そういえばロスに発つ前、桜を見たときにもそんなことを思ったな、とぼんやり思い出した。わたしがこの目で日本の桜を見ることは、もうこの先ないんだろう。
「……付き合ってた時、
花火一緒に見ようって言って見れなかったよね」
「ああ、そんなこともあったわね……」
「ちょっとちょっと。
そこふたり、付き合ってた時の話するのやめない?あたしたちが絡みづらいから」
夕帆先輩に「なんで指図されなきゃいけないの」と眉間を寄せている夕陽。
夕陽といつみ先輩が文句を言い合ってる時は止めてくれるのに、こういうときだけどうして彼は夕陽と喧嘩するんだろう。
そしてその場合、止めてくれるのはいつみ先輩なのだけれど。
喧嘩になる前に「夕陽」と名前を呼んで気を引けば、彼はあっさり口をつぐんで「ん?」とわたしを見る。
「……すこし先の話なんだけど、」
花火が打ち上がる音に、
びりびりと脳の奥が痺れるような錯覚を起こす。