悩ましきは猛進女の撃甘プロポーズ

「ハイ! きっとお仕事をされていると思い、差し入れをお持ちしました!」

午後十時十分。

なのに、そのラジオ体操のような、キレキレの話し方は何だ!
今まで感じていなかった疲れが一斉に芽吹く。

「僕は夜食べない主義だ」

だからパーティーでも、ノンアルコールの飲み物しか口にしていない。

「でもですね、まだ、お仕事を続けられるのでしょう? なら、効率よく脳を働かせるためにも、是非!」

パタパタと傍に来たかと思ったら、手に持つバスケットを、雑然とした中でも一番安定した場所にトンと置き、開ける。

フワッと香ったのは、甘いフルーツとバニラの香り。
これはもしや! と見れば、やはり……フルーツサンド。ゴクリと唾を飲む。

「百合子さんにこれがお好きと聞いて、あの後、速攻で家に戻り作って参りました!」

満面の笑みを浮かべ、敬礼しそうな勢いでキリリと言う。
お前は軍人か! と思わず突っ込みそうになる。

――フム、邪見にすればこれはゴミ箱行き? フルーツサンドには罪はない。
しかし、百合子の奴、余計なことを!

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