きっと今夜は雨・・・
「ねぇ、知ってる?システム部の清水さんと社長の娘さんの話」

 そんな噂話を耳にしたのは3日前だった。

「うん。聞いた。酔っ払いに絡まれていたところを助けたって話でしょう?それでその話を聞いた社長が清水さんを気に入って、娘の結婚相手にしたいとかって」

「今時、そんな話もあるんだね。どうするんだろう?」

「だって、断ったら、会社を辞めされられるんじゃないの?でも、話を受けたら、いい役付きがもらえるかもしれないしね」

 そんな話は初めて聞いた。

 昨日も彼とは電話で話したのに。

 私たち二人はいわゆる社内恋愛というもので、部署が違うから下手に噂がたつと困るということで、誰にも秘密にしてある。

 だから、デートの約束はいつも電話だし、社内では絶対に話をしないようにしていた。




 その日の夜。

 いつまでもかかってこない電話に痺れを切らして、自分の方から掛けた。

「お掛けになった電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためかかりません」

 留守電にもなっていない。

 まだ仕事中なのかもしれない。

 そうであって欲しいと願った。


 それから2時間後の11時。

 さすがに連絡をつけられるだろうと思って、電話を掛けた。

「もしもし、私だけれど、今、大丈夫?」

「今、家に帰ってきたところだよ。ああ、ごめん電話かけられなくて。ちょっと急な接待でさ、携帯の電源も落としていたし。もしかして、何度か連絡くれた?」

「うん、何度かしたよ」

「悪かったな。今週末のデートなんだけれど、急に出張が入って会えなくなったんだ。この埋め合わせは必ずするからさ、ごめん」

「しょうがないよね。だって仕事だし。お土産、買ってきてよね」

「わかったよ。じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 週末のデートが中止になるのは、今回が初めてじゃない。

 仕事柄、それはしょうがないとわかってはいるけれど。

< 2 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop