溺愛までノンストップ〜社長の包囲網から逃げられません〜
目の前に見せた手土産の紙袋の中から、美味しそうな匂いがしてくる。
ゴクッとなった喉に、男は意地悪く笑った。
「料亭、雅の松御膳弁当食べたくないのか?」
料亭、雅と言えば、私なんか平民が食事できる場所ではない。そのお弁当が目の前にぶら下がっている。
答えは1つしかない。
「食べたい…です」
語尾をしおらしくつけてみたら、プッと吹かれた。
「2人きりの時は敬語なんて必要ない。しおらしい麗美なんて麗美じゃないだろう⁈」
なんとなくムカつくけど、目の前のお弁当がかかっているのだ。
ここは我慢と言葉を飲み込み
「くれるのくれないの?どっちよ?」
私の口調にご満悦のように笑った男が、頭にポンポンと手を乗せた。
「食べるなら、俺のお茶を用意して持ってきてくれ」
そう言って、紙袋を持って社長室のドアを開けて入っていってしまった。
お弁当が…人質に取られた気分になる。
お茶を出さないともらえないって事だよね…
空腹には勝てないからと言い訳し、お茶を出すだけでお弁当がもらえるなら、それぐらいの頼みを聞いてあげようと給湯室でお湯を沸かした。
「…失礼します」
ドアをノックしてから入っていくと、男は携帯電話で話しながら、私に向けた視線をテーブルの上に向けた。
テーブルの上にお茶を置けって事か⁈
そう判断し、なるべく音をたてないようにテーブルの上に湯呑みを置いて、次の指示を待った。
私の視線は、テーブルの上に置かれた紙袋と男を交互に見つめた。
しばらくして、通話を終わらせた男は3人がけ用の広いソファの中央に座り、私を手招きする。
やっと、お弁当がもらえると喜んで男の側まで近づくと、手を引かれ男に倒れるようにソファに腰を下ろしてしまった。
「なにするのよ」
男の胸を押して睨んだ。
「奴隷の分際で反抗するのか?」
ウッ…
「その事なんだけど、仕事中の奴隷契約はナシよ。私はあなたの会社の社員なんだから就業時間が終わらない限り身動きが取れないんだから、それでいいわよね⁈」
「俺に返済が終わるまで尽くすって話しだったはずだ。仕事中だろうがそれ以外だろうが俺の側にいるのが奴隷だ。…お前の時間は俺の物だって忘れるな」
両頬を男の手のひらに挟まれ見つめ合う。
まるで、独占欲を見せた男のように見えて、胸がキュンと鳴った。