不埒な専務はおねだーりん
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専業主婦だった母が宇田川家の家政婦として働きだしたのは私が5歳の時、今から約20年前のことである。
かねてより折り合いのつかなかった父と離婚し、金銭的に窮地に陥った私達親子を救ってくれたのが、宇田川不動産の創業者一族である宇田川家だった。
旧財閥の流れを組む宇田川家は、もともとは炭鉱経営によって財を成した家系であったが、そのころから盛んに土地売買を手広く行っており、宇田川不動産という株式会社の体を成した今でも高層ビルやショッピングモールなどをいくつも所有する押しも押されぬ大企業である。
そして、宇田川家の期待を一身に浴びたひとり息子、同社の専務取締役でもある“宇田川篤典”さんは私達兄妹とは旧知の仲なのである。
普通ならありえないよね!?私もそう思う!!
とにかく、私達鳥山兄妹と篤典さんは子供の頃から雇用主の息子と使用人の子供という垣根を超えた友情と親愛で結ばれているのだ。
……多分。
特にお兄ちゃんの方は同じ年齢ということもあって、立派な大人に成長した今でも篤典さんの秘書を勤めるほどの仲睦まじさである。
……本人に言うと、嫌悪感丸出しの眼で睨まれた挙句めっちゃ怒られるけどね。