不埒な専務はおねだーりん

「ドア・イン・ザ・フェイス……じゃないんですか……?」

浜井さんが教えてくれたビジネステクニックが正しければ、この後はいくらかましな提案がされるはずである。

しかし、待てど暮らせどおねだりのグレードは下がらない。

「……僕がそんな小細工使うタイプに見える?」

篤典さんはもちろんドア・イン・ザ・フェイスの意味を理解していたが、使用については否定したのだった。

……よく考えたら彼の言う通りだ。

彼の背景には天下の宇田川家がある。

小細工を使ってちまちま小さい要求を突きつけるよりも、大きい要求がそのまままかり通ってしまうのが常である。

(じゃあ、今までのおねだりは全部本気ってこと……!?)

網タイツも。食事に行きたがったのも。キスも?

「そんなに照れなくてもいいだろう?昔はよくチュッチュとしていたじゃないか」

かつての愚行を聞かされると、耳を塞いでギャーっと叫びたくなった。

そう、私のファーストキスは言わずもがな篤典さんに捧げたのだ。

「ほら、僕たち結婚の約束もした仲だし。今更キスのひとつやふたつで大騒ぎすることもないだろう?」

「いつの話をしてるんですか!!」

“誓いのチュー”と称して唇を合わせたのは、私の6歳の誕生日のことである。


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