不埒な専務はおねだーりん

……篤典さんは決して自分からねだらない。

ねだらなくてもいいように、私に覚えさせてしまったからだ。

周囲を見回して誰にも見られていないことを確認し、背伸びをして篤典さんの首に腕を回す。

「イイ子だね」

篤典さんは待ちわびていたように、左腕で私の腰を己に引き寄せ、右手で後ろから頭を支えた。

何度繰り返しても衰えることのない情熱的なキスと、蜂蜜のように濃厚な甘い時間を引き換えに、私は大事なものを失っているに違いなかった。

この関係が良いものだとは決して思わない。

宇田川家のひとり息子である篤典さんには自由恋愛は許されていない。

どれほど私が願ったとしても、傍に居続けられることは叶わないのだ。

この幸せな時間は永遠には続かない。

ほんの束の間、今しばらくの間だけ。

あと少し、もう少しだけ。“その時”がやってくるまで……。

せめてお兄ちゃんが退院する日まででいいから、ひっそりと逢瀬を重ねさせて欲しい。


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