呼び名のない関係ですが。
それから何分もしないうちに「お待たせです」と高遠さんは、白い皿を片手に二皿まとめて持って来た。

自分の部屋にいるのにまるで私のほうがお客さん状態で、何だかいたたまれない。

彼の持ってきた皿の中身はフレンチトーストだった。

こんがりと黄金色(こがねいろ)に焼かれ、いかにも美味しそうに盛られている。

フレンチトーストのうえにかかっている、とろりとしたものはメイプルシロップだろうか。

さっき彼が言った通り、冷蔵庫のなかはほぼ空っぽに近い状態だ。

これもわざわざ買ってきたんだろうな、と思わず呻いてしまう。

仕事の忙しさだけを重ねる日々を何年も過ごしてきた。

父との二人暮しが長かったから、一通りのことは出来るつもりでいるけれど、それを披露することもなく過ごしてきた私の腕は錆びついているかもしれない。

……それにしても、高遠さんには出来ないことなんてないのか。

頭のなかの言葉が口から漏れていたらしい。

高遠さんは、食卓の皿を指さし「焼くだけ、ちぎるだけ、入れるだけ」と笑った。

「込み入った料理とか出来ないんで。あとはカレーくらいしか作ったことないっすから」

「フレンチトーストなんて、何年も食べてないかも」

小さいころ、何度か母に作ってもらった記憶が薄らあるけれど、存在自体忘れてたような気がする。

「女ってこういう甘ったるいの好きでしょ?」
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