呼び名のない関係ですが。
そして、彼の親し気な仕草のせいで動揺丸出しで変な顔をしている自覚のあった私は、遅ればせながら大きなマグカップを手に取って表情を隠す。

ただでさえ、こうやって何気ない朝をふたりで過ごすとか、慣れていないのだ。

……五つも違うのになぁ。

高遠さんは私の返事を待つことなく、用意してくれたフレンチトーストを指さした。

早く食べろということらしい。

「……いただきます」

ほっこりと甘い匂いを漂わせているトーストを口に入れると、メイプルシロップがひろがった。

無言のままもう一口かぶりつく。

すると、隣からクスリと漏れた笑い声が聞こえた。

「美味しそうな顔してるから。この間もプリンの時も」
「……そんなの顔に出てたかな」

私の不審そうな声に肩を竦めた高遠さんは頷いた。

「主任って実は甘いものかなり好きでしょ。飲みに行ってもシメにデザート頼もうか、いつも迷ってるし。それで食ってるときは、口の端が微妙に緩むし」

確かに普段はあまり甘いものを食べないから、外だとつい頼みたくなる。

ことに、お酒を飲んだ後なんかには。

『美味しいのか不味いのか分からないから、奢りがいがない』と言われたことはあっても、嬉しそうに食べてるなんて指摘されたことは今まで一度もなかったのに、しっかり観察されていたなんてやはり高遠さんは侮れない。

そんなことをモジモジ考えていたら突然、高遠さんの手が向かい側から伸びてきた。
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