呼び名のない関係ですが。
ひとり暮らしは、それなりにやらなくちゃいけないことだってある。

私の言いたいことを察した高遠さんは「ああ、買い物でしたっけ?」とニヤニヤ笑い交じりに、首を傾けた。

「それと洗濯、掃除もあるし」

ついでに高遠さんの襲来襲来を受けて途中になってしまった映画も見たい。

「それなら夕方には余裕っすね。……じゃ、六時に商店街側の改札ってことで」
「そんな勝手に」

私の言葉を遮るように、今度は高遠さんの長い指が私の唇を摘まむ。

「あれ? 主任。まさか、断ったりしませんよね?」

ギュッと絶妙の力具合で引っ張られて無理矢理アヒル口にされた私は、彼の腕を叩いてその手を外させた。

「約束しましたよ?」

強引な態度とは裏腹に、耳元で囁かれた高遠さんの声はメイプルシロップよりも甘くって、結局頷く以外の選択肢しか思い浮かばない私のほうが、きっとフレンチトーストよりもグダグダになっているのかもしれない。
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