呼び名のない関係ですが。
4.幼馴染み
***
人混みの中での待ち合わせというのは、案外いい暇つぶしがある。

色々なひとを観察出来るのだ。

スマホ片手に遅刻して来ない友人の文句を言ってる女子高生達や合コンの待ち合わせらしくソワソワした男女の群れ。

きっと恋人を待っているのだろう、お洒落をした女性。

そんなことをボケっと考えているのは、待ち合わせ時間よりもかなり早く着いてしまったからだ。

『スーツ』という特徴を身に着けていない私を高遠さんは認識できるのかと思った途端、いつしか早足になっていた。

ユルッとしたニットとジーンズを合わせ、いつもより気の抜けた格好の自分自身を冷静に分析した結果は、凡庸としか言いようがない。


飽きることなく人間ウォッチングを堪能していた私の目に、ひと際目立つ彼の姿が飛び込んで来たのは、何十分か後のこと。

思えばスーツ姿ではない彼を見たのは私も初めてだった。

ブラックジーンズに白いシャツなんて何の変哲もないカジュアルな恰好なのに、なんて目立つのだろう。

長身なうえにその容貌は、明らかに他の人の視線をさらってしまう。

高遠さんは急ぎ足で改札口を出ると、さっと辺りを見渡した。

私と視線が合った途端に目の表情を緩めたのが分かったけれど、他のひとと同様に見惚れていたと思われたくなくて、ついそっぽを向いてしまった。

「出掛けに電話が来たんで、お待たせちゃってすみません」

自分が指定した時間に十分ほど遅れてきた高遠さんは、頭を下げる。
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