呼び名のない関係ですが。
そんな丁重な反応をされると、実は私がもっと早くから待っていたのを知っていたんじゃないかと半ば被害妄想的に勘繰ってしまう。

だからつい「いえ、お気遣いなく」なんて、素っ気なく答えてしまった。

こんな言い方をすると、高遠さんにまた固いの何のとからかわれるだろうと身構えたものの、彼は気もそぞろに腕時計をチラリと見やり小さく舌打ちをした。

「何かあるの?」
「……あぁ、まぁ。とりあえず、一緒に来てもらってもいいっすかね」

珍しく言葉を濁した高遠さんは私の腕を引っ張って、通ったばかりの改札方向へと戻った。

いつになく無口な高遠さんに連れて行かれたのは、私の家の最寄り駅から電車で二駅ほど行ったあと、更に違う路線に乗り換えて三駅目にある居酒屋だった。

都内を主軸にチェーン展開している居酒屋さんで美味しいとの評判だけど、さっき乗り換えをした駅前にもあったはず。

何故、ここ? と思いながらも、店に入った高遠さんの背中についていくと、彼はレジ前の店員さんに「すみません、高遠で予約してるんですが」と声を掛けた。

「あ、はいっ。お連れさまもみえてますぅ」

“お連れさま”の意味が分からなくて、店員の後に続いた高遠さんの腕を小さくつついた。

「高遠さん。お連れさまって、何」
「それを言うなら『誰?』でしょ」
「……そういう言葉遊び要らないから」

説明する気もなさそうな高遠さんは、振り返って私の右の手首を掴む。

「捕獲っつーことで」
「えっ? なっ、何?」
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