呼び名のない関係ですが。
そしてそんな付き合い方をしていたのは横田に限ったことではなく、似たり寄ったりのものだった。

相手の心変わりや自然消滅。

その度なにがしかの傷は付いたけれど、何度か痛い経験をするうちにだんだん恋愛に対する気持ちが薄くなっていった。

この数年間、前のめりになれたのは仕事だけなのだと思うと、自分の欠落している部分に否が応でも気付いてしまう。

相田さんのように心を明け渡すような恋なんて、出来るはずもなかった。

思いっきり振られた場面を見られた高遠さんに今更格好をつけたって仕方がないけれど、わざわざ言葉にするのはなけなしの自尊心が疼く。

「そうかも」とだけ口にして、高頭さんを追い抜くように歩くスピードを速めた刹那、彼の手が私の左手をぎゅっと掴んだ。

「酔い、回っちゃいますよ」

親指で手の甲をそろりと撫でられた後で絡めるように繋ぎ直された指先を見つめても、高遠さんはまるで気に掛ける様子もない。

彼はオレンジ色の灯りの下をのんびりと歩き始めた。

「これって、高遠さんがすでに酔ってるって話じゃないの?」

歩き始めてからずっと疑っていた、と言うとそんな私の考えを彼は一笑に付す。

「酔ってないっすよ。第一、手ぐらい繋いでもいいでしょ。一緒に歩いてるんだから」
「……そういう文化、私にはないんだけど」
「文化って、ハハハ。三峰さんのそういう言い回し、好きっすよ」

このひとは、あっさりとそんなことを言う。

ひとの傷を撫でたかと思うとサッと手を引いて、また次の瞬間には懐に入ってくる。

高遠さんからほど良い距離を測られていのが、どうも落ち着かない。

胸の辺りが酷くザワザワする感じを高頭さんだけには気付かれたくなくて、ぎゅっと下唇を噛んだ。

感情に押し流されて余計なことを言ってしまわないように。

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