呼び名のない関係ですが。
「驚きすぎ」
「だって……いきなり。そういうのって普通、聞くかな」

脈絡のない話の流れに動揺した私がムッとした口調で問うと、彼は肩を竦める。

「聞いたらまずかったですか」

高遠さんの口調は軽いけれど、鋭いところをほじくるのが上手い。

細やかな気配りだって出来るのに、その彼が尋ねてきたということはわざと踏み込んでいるのだ。

「私は、ひたむきとかずっと想うとかそういうの無縁だから」
「横田さんはゲスなクソ野郎だから仕方ないとしても、今まで全てそうっだって訳じゃないですよね」

私の粗末な過去を漁られても、たいした話なんて出てきやしない。

「私にまでレンアイ話をしろって? ……無いでしょ」

話が妙な方向に向かっていくのを止めたくてわざと突っかかるように言葉を返すと、高遠さんに大きな溜息を吐かれた。

「……主任は基本、ここんとこを緩めたくないんすよね」

指し示すかのように、高遠さんの拳が私の胸の辺りをトンッと軽く叩く。

横田は私に対して強い愛情があったわけじゃない。

時間が合えば食事をして気軽に寝れるような、分かりやすいくらいに都合の良い女だっただけだ。

でもそれは、合わせ鏡のようで。

私も『たまに隣にいる横田』で良かった。
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