臆病者で何が悪い!

「あらー! いらっしゃい!」

生田のお母様の予想外の明るい声が弾ける。

「あ、あの、私、眞さんの同僚の内野沙都と申し――」

「きゃー! 眞が女の子と並んでるわ!」

「母さん、少し落ち着きなさいって。ほら、沙都さん固まってるじゃないか」

「え、あ、いえ――」

「やだっ! ごめんなさいねぇ。眞が女の子連れて来るのって初めてでー。なんだか、それだけで感動しちゃって。それにね、沙都さんが、あまりに可愛らしくってね。眞ってこういうタイプの女の子が好きだったんだー。なんちゃって」

なんちゃって――?

「いっつも冷めた顔して、若いのに覇気もなくて。もしかしてこの子、恋愛できないんじゃ、なんて思ってたけど、ちゃんと機能してたのねー! 安心したわ!」

き、機能ーー?

「母さん、余計なこと言わずに少し黙ったらどうかい? それより沙都さん、お酒は飲めるかい?」

「お酒、ですか? は、はい」

「そりゃあよかったー! 実はね、さっきね買い物行ってきたんだけどさ。あれもこれも買ってきちゃってさぁ。せっかくだから、全部飲んで帰ってよ! 何が好きかな」

「ちょっと――」

お父様とお母様のマシンガントークに唖然としていると、生田が少し強い口調で言葉を挟んで来た。

「ここ、まだ玄関なんだけど。そろそろ家の中入れてくれないか」

冷静かつ的確な言葉に、お父様とお母様が再び二人会わせて声を上げた。

「あらー! やだー! ごめんなさいね―」

なんだか――。私が想像していたご家族とは、少し、いやかなり違っていた。

生田の自宅は、浜松駅からタクシーで15分くらいの住宅街にあった。
本当に、いたって普通の住宅街。

生田の家も、これまた狭くも広くもない、本当に普通の一戸建て。
ただ、玄関周りや庭には、冬にもかかわらず花が咲いていた。

お花に詳しくないから、花の名前が分からない。

可愛らしいお庭から、生田のご両親が植物を育てるのが好きなのだと見てとれた。

そして、現れたご両親。

お父様は、少しお腹が出ている本当に気の良いおじさまといった雰囲気だった。
白髪交じりの髪と、温和な目元。

お母様は……。凄かった。多分、若いとは思う。思うけれども50代ではあるだろう。
それにしては、とても可愛らしい洋服を着ている。
フリルがついたエプロンにピンクのモヘアニット。花柄のフレアスカート。
一言で言えば、いつまでも少女の心を持ったような人?
可愛らしい人。そして、とにかく賑やかだ。

「さあ、さあ、沙都さん。遠慮しないで、どんどん食べてねー。朝から私、頑張っちゃったのよー。このほうれん草のキッシュは特にお気に入り!」

「はい。本当に美味しそうです!」

部屋の中のインテリアは、多分、お母様のご趣味なのだろう。
カントリー風? フレンチ? なんだかそんなような感じと言ったらいいだろうか。

そこら中に薔薇の柄の布が敷かれていて、窓にはすべて花柄のカーテンがかかっていた。

出された食器もすべて花柄。

私と生田で並んだダイニングの席の向かいに、お母様、お父様と並んで座っている。

ダイニングテーブルには所狭しとお料理が並んでいた。
お皿に取り分けてくれたほうれん草のキッシュを早速口にする。
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